なぜ人類はコーヒーをやめられないのか——ヤギ飼いの発見から始まった1000年の覚醒科学

エチオピアの山でヤギが赤い実を食べて踊り出した。その伝説から始まったコーヒーの旅は、 イスラムの修道院・オスマン帝国・江戸の出島を経て現代の脳科学へとつながる。

毎朝コーヒーを飲まないと頭が動かない——そう感じる人は多いはずだ。世界で1日に消費されるコーヒーは約22億5000万杯。水・お茶と並ぶ世界三大飲料の一つだ。しかしなぜ、エチオピアの山で発見された一粒の赤い実が、1000年かけて地球上のほぼすべての文明に浸透したのか。その答えは脳のある化学物質にある。

なぞ太

コーヒーって朝飲まないとなんか頭が働かない気がするんだよね。これって気のせい?それとも本当に脳に効いてるの?

かぎねずみ

気のせいじゃない。脳科学的にちゃんと説明できる。でもその前に、なぜ人類がここまでコーヒーにはまったのかを歴史から追うと面白い。

目次

踊るヤギから世界征服へ——コーヒー1000年の旅

コーヒーの起源には複数の伝説があるが、いずれもその覚醒効果が発見の核心にある。エチオピアで生まれた一粒の実は、宗教・政治・経済を巻き込みながら世界を征服した。

9世紀ごろ(伝説)エチオピア

ヤギ飼いカルディの伝説——「眠らない修道院」の誕生

エチオピアの高原で、ヤギ飼いのカルディは自分のヤギが赤い実を食べると夜も眠らず興奮して踊り回ることに気づいた。修道僧に伝えたところ、実を煮出して飲むと夜通しの祈祷でも眠気をこらえられることがわかった——これが最も有名なコーヒー起源伝説「カルディの伝説」だ。ただしこの話の原典は1671年のレバノン人著作家ファウスト・ナイロニの著書であり、年代も場所も不詳の伝承として記されていた。コーヒーの流行に合わせて舞台がエチオピアに設定され、脚色が加わったとも考えられている。

10世紀ごろ アラビア

最古の文献——イスラム医師が「薬」として記録

コーヒーについて書かれた最古の文献とされるのは、10世紀のイスラム医師アル・ラジー(ラーゼス)による医学集成だ。当時コーヒーは患者の消化や強心のための「薬」として扱われていた。イスラム寺院では夜の礼拝に眠気を防ぐ効果があるとして珍重され、門外不出の秘薬として厳しく管理された。

15〜16世紀 イエメン・オスマン帝国

世界初のコーヒーハウス——「議論と情報の広場」へ

15世紀にはイエメン全土に広まり、コーヒー豆を炒って煮出す現在のスタイルが確立。1554年、オスマン帝国コンスタンティノープル(現イスタンブール)に世界初のコーヒーハウス「カーベハーネ」が誕生した。コーヒーハウスは人々が集まって政治・芸術・商売を語る場となり、「ペニー大学」とも呼ばれた(入場料1ペニーで最新情報が得られるため)。オスマン帝国はコーヒー豆の独占を守るため、結実能力のある豆の持ち出しを禁止した。

17世紀 ヨーロッパ

ビールからコーヒーへ——啓蒙時代の飲み物

17世紀のヨーロッパでは水道水が汚染されていたため、朝食にビールを飲む習慣があった。つまり人々はしばしば酩酊状態にあった。コーヒーが普及すると、酔った頭が一気に覚醒した。1686年パリに開店した「カフェ・ドゥ・ラ・プロコップ」にはルソー・ヴォルテール・ディドロら啓蒙思想家が集まり、フランス革命の種を育てたとも言われる。コーヒーは文字通り「歴史を変えた飲み物」だった。

18世紀ごろ 江戸時代・日本

長崎出島から日本へ——「焦げくさくして堪えず」

日本には18世紀ごろ、鎖国中唯一の窓口だった長崎・出島のオランダ商館を通じてコーヒーが伝わったとされる。コーヒーを飲んだ記録がある最古の日本人の一人、江戸後期の文人・大田南畝(1804年)は「焦げくさくして味ふるに堪ず」と感想を残した。茶の文化に慣れた日本人にはなかなか受け入れられず、1888年(明治21年)に東京・上野に日本初の喫茶店「可否茶館」が開店してようやく一般に広まり始めた。

現代

1日22億杯——脳科学が解明した「やめられない理由」

現在、コーヒーは水・お茶と並ぶ世界三大飲料。世界で1日約22億5000万杯が消費されている(ラバッツァ調査)。ブラジルが世界最大の生産国で、世界生産量の約3分の1を占める。コーヒーをやめられない本当の理由は脳の化学物質にある——現代科学はついにその答えを出した。

脳を「ハック」する——カフェインのメカニズム

なぞ太

コーヒーを飲むとなぜ眠気が覚めるの?カフェインって直接脳を興奮させてるの?

かぎねずみ

面白いのはそこだ。カフェインは脳を直接「アクセル」で興奮させているのではなく、「ブレーキを外す」という間接的な方法で働いている。

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